投稿者 葦木啓夏
職業 シンガー

君といっしょに。

『ねえ、ぼくはどうして生まれてきたの?
生きてる理由があるの?
こんなに星の数ほど人がいるんだったら、
別にぼくじゃなくてもいいんじゃないかな?』

8才にも満たない少年は
そう寂しそうに呟く。
この子に何があったんだろう。
母に愛されなかったのか。
家族と生き別れたのか…。
それとも…? 

まだ、乳の香りする彼の胸に
秘められた思いを溶かしたい。
自分の答えを見つけてほしい。

『行こう、いっしょに!』

そして私は、彼を私の背に乗せ
飛び立った。

生と死の狭間の空間を、
この世とあの世を、
根の国と呼ばれる場所を、
大きな山々を、
一面に広がる湖を、
太陽の始まる場所を、
さらに速度を上げて
星々の世界を、
星と星がぶつかり新たな星が
生まれる場所を、
灯火消える星の姿を、
銀河と呼ばれる果てなき場所を、
すべてのいのちが弾けてうまれた
始まりの場所を、漆黒の闇が
途方もなく続く空間の中を、
見えない風となり、
時に見えない光となり、
彼といっしょに旅をした。

あの星を越えて銀河をわたり
幾線万もの光と出会い
あなたと再びめぐり会う時に…

旅のおわり、少年はポツリと
私の背中で、たなびく金色の尾を
掴みながら言葉をこぼした。

『ぼく、わかったよ…。
ぼくが選んだんだ。
ぼくが生まれたかったんだ。
もう、逃げない。
もう、逃げないよ。』

私の鱗に、ポタリと雫が落ちた。
少年のなかに、何かが芽生えた。

『そうか。』

そう答えようとした瞬間に
私の体は、細やかな金色の粒となり
彼の心の真ん中へと溶け合っていった。
そう、私は彼自身の
意志の化身だったのだ。

『いつも、そばにいてくれたんだね。
 さあ、行こう!』

少年の旅は、まだまだ始まったばかり。


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